活動報告

2022.05.27 卓越サロン

第19回卓越サロンを実施しました

報告担当:

  1. 石井秀昌(新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻,WINGS-PES 6 期)
  2. 河西碩紀(新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻,WINGS-PES 6 期)
  3. 村松駿(工学系研究科 精密工学専攻,WINGS-PES 2 期)
1.第 19 回卓越サロンの概要 

日時 2022 年 5 月 27 日 (金) 15:00 – 17:00 
場所 Zoom(オンライン) 

今回の卓越サロンでは,参加者間の親交を深めることを目的として,2 部構成のプログラムを準備し た.第 1 部のテーマは研究生活,第 2 部のテーマは進路・人生設計であり,各部は (1) ホストからの話題 提供,(2) ブレイクアウト・ルームでの交流,で構成されている.会の準備に際して WINGS-PES の学生に アンケートを行ったところ,第 17 回卓越サロン (2022 年 2 月) のように,ブレイクアウトルームに別れて 交流する時間がほしい,との声が寄せられた.そこで交流の時間をとることを念頭に置き,各ルームでの 議論を活発にするため,多くの参加者が共通して興味を持ちそうなテーマに関して話題提供をすることに した.今回のサロンの特徴は次の点である. 

  • 比較的短い話題提供とブレイクアウト・ルームでの交流を 2 回繰り返す構成とした.
  • 参加者からリアルタイムでフィードバックを受けるために Slido*を利用した.
  • 幅広い領域で活動する参加者の共通の話題になり得るテーマとして,研究生活や人生設計に焦点を当 てた. 

*Slido は Q&A やライブ投票などのツールを提供し,授業や講演会などでホストと参加者が双方向にコミュニケーションをとる ために利用できる Web サービスである.無料のアカウントではイベントページにアクセスできる参加者数が 100 人に制限され るが,東京大学の Webex アカウントでログインすると有料機能を利用できる.

本稿では会の中で挙がった質問や事後アンケートの結果を基に,今回の卓越サロンを振り返る.第 1 節 と第 3.1 項を石井,第 2.1 項を河西,第 2.2 項,第 3.2 項と第 4 節を村松が主に執筆し,石井が全体に検討 を加えてまとめた. 

図1:サロンの最後に撮影した集合写真.参加者は 85 名程度であった. 

2.第 1 部:研究生活 

2.1 話題提供と質疑 

第一部では,研究生活に関するディスカッションのための話題提供として,河西が自分の研究テーマと 研究室における活動を 10 分程度で説明した.前半では河西の研究テーマである「がん微小環境の数理シ ミュレーション」について説明した.さらに,理学と医学の融合した研究分野を進める上で必要な目的の すり合わせと,学融合の研究を進めるために卓越サロンやセンシング勉強会に参加することで異分野の知 識を獲得していることについて説明した.後半では,現在のコロナ禍において,所属する研究室がどのよ うに研究を進めているかを説明した.所属研究室が解析メインのドライ研究室であり,オンラインで研究 を進めるために様々なツールを使っていること,また,言語の障壁をどのように乗り越えているかなどの 説明を行った.質疑応答 (5 分程度) では,Slido によって質問が出やすかったのではないか,と感じてい る.質問としては,以下のようなものがあった. 

  • 対面のミーティングと比べ,オンラインのミーティングはどのような利点がありましたか? (著者に よる翻訳) 
  • 交流が少なくて病んでしまう学生とかはいませんでしたか? 
  • 研究室ミーティングでの言語は日本語ですか? 

現在のコロナ禍におけるオンライン/オフラインの研究室での活動に関する質問が多かった.コロナ禍の 規制が解除されつつある今,今後の対面でのミーティングや交流の上で必要なことを知りたいと考える人 の多さを感じた. 

2.2 ブレイクアウトルームでの交流 

日本語英語
1.シミュレーションについてSimulation in your research
2.学融合の進め方Platform for transdisciplinary research
3.研究成果の社会実装Social implementation of research results
4.研究テーマの見つけ方How to create a research topic
5.今のコロナ禍における研究室内外の交流Interaction inside and outside the laboratory in COVID-19 crisis
6.ワークショップや企画等の,卓越サロンへの要望Requests for Salon of Excellence such as workshops and projects
7.研究生活で用いているツール (アプリやサイトなど)Tools (apps, websites, etc.) which you use in your research life
8.研究や授業のオンライン/オフライン化In-person or online classes / meetings / research
9.研究生活での言語の壁Language barrier in research life
10.フリーテーマFree theme

表1:第 1 部でのブレイクアウトルームにおけるトークテーマ一覧

図2:アンケート回答者 (52 ) が第 1 部で選択したトークテーマ. 

第 1 部では,表 1 にある 10 個のトークテーマを用意し,各テーマにつき日本語・英語ともに 2 部屋ず つ,合計 40 部屋を用意した.参加者が実際に選択したトークテーマは図 2 の通りである.総じて,研究の進め方に関する議論の人気が高いという結果ではあったが,比較的バランスよく参加者が集まったた め,テーマの設定はうまくいったと考えている.特に人気の高かった「シミュレーションについて」のブ レイクアウトルームでは,全員がシミュレーションに関する知見をもつという貴重な空間で有意義な議論 を行うことができた,という感想がある一方で,それぞれ用いているシミュレーションソフト(方法)が 異なるせいで悩みを共有しづらい,という意見も見られた.この意見の一つの原因としてテーマが抽象的 すぎたことが考えられる.より具体的かつ共通の話題をあらかじめ予想しテーマに設定することで,より 有意義な議論を提供できた可能性がある.

3.第 2 部:進路・人生設計 

3.1 話題提供と質疑 

第 2 部のテーマは進路・人生設計であり,はじめに話題提供として,石井が研究・学業と家庭運営の両 立に関する自身の体験を 10 分程度で共有し,5 分程度の質疑応答の時間を設けた.これまでの卓越サロ ンでは研究内容やその進め方に関するテーマが扱われてきた.しかしアンケートなどを通して,進路や人 生設計など,より生活に近い話題を期待する声もあることがわかり,このテーマを選定した.結婚や子育 てなど私的な話題に言及することになるため,参加者が居心地の悪さを感じないように,次の点に注意し た.まず話題提供のはじめに,進路や人生設計,家庭のあり方などに多様性があることを認識した上で, 一つの事例として石井の個人的な体験を共有する,ということを強調した.またプレゼンテーションの中 では自分を主語にして話し,一般化を避けるように意識した. 

第 2 部では繊細なテーマを扱った分,匿名で質問できる Slido の長所を活かした質疑応答ができたと考 えている.家庭運営の方法や学業と両立するための工夫,経済的状況に関する質問が出た.また学生結婚 に関する情報を得られる Web サイトや窓口に関する質問もあり,大学に残りながら家庭を持つことを検 討しようと思っても参考になる情報が得られない現状を再認識した*. 

*残念ながら石井自身,参考になる Web サイトなどは見つけられないままであり,助けになる返事をすることはできなかった.

結婚や子育ては全員に関係するわけではないものの,一部の学生にとっては差し迫った話題でもあり, 関連する情報も手に入りづらい状況である.参加者が居心地の悪さを感じる懸念や,自分の私生活につい て卓越サロンという場で話すことへのためらいなどもあったが,話題提供と交流を通して,研究・学業と 家庭の両立に悩む人が一定数いることを認識する機会を得られた. 

3.2 ブレイクアウトルームでの交流 

日本語英語
1.留学とキャリアStudying abroad in your career
2.留学と家庭Studying abroad with your family
3.博士課程卒業後の進路Career plans after PhD course
4.研究・学業と結婚・子育てMarriage & child rearing in academia
5.研究者の経済的状況Financial situations of researchers
6.在宅での研究・学業Studying at home
7.(研究) 生活に役立つツール・情報Tools and tips for (research) life
8.ワークライフバランスWork-life balance
9.卓越サロンへの要望などComments for Salon of Excellence
10.フリーテーマFreewheeling conversations

表2:第 2 部でのブレイクアウトルームにおけるトークテーマ一覧

第 2 部では,表 2 にある 10 個のトークテーマを用意し,各テーマにつき日本語・英語ともに 2 部屋ず つ,合計 40 部屋を用意した.参加者に自分の私生活について話すことを強制することはあってはならな いと考え,結婚や子育てに言及せずに済みそうなテーマを半分以上 (テーマ 1, 3, 5, 6, 7, 9) 設定した. 

3 アンケート回答者 (52 ) が第 2 部で選択したトークテーマ. 

参加者が実際に選択したトークテーマは図 3 の通りである.「博士課程卒業後の進路」の人気が最も高 い.このブレイクアウトルームでは,進路の希望や決定/未定など異なる様々な参加者間での情報交換を 行うことで,実質的な解決にはならずとも,問題や悩みを共有でき精神的に有意義であったという感想が 多かった.このテーマは結婚や子育てには言及せずに済むものであり,テーマ設定の工夫をしたことで, このテーマを選んだ参加者に不快な思いをさせることを避けられたと考えている.また,二番目に人気の 高かった「研究・学業と結婚・子育て」では,普段聞けないような攻めた内容・プライベートな内容に関 して率直に議論を行える場を非常に貴重と捉えていただけた方が多かった一方で,結婚や子育てというセ ンシティブ・デリケートな話題であることを心配する声もあった.このように普段は話しづらいような踏 み込んだ内容の議論を,もれなく参加者の気分を害することなく行う,ということは非常に難しいことだ が,同時に非常に価値のある挑戦だと考えられるので,卓越サロンという本コミュニティにおける今後の 課題の一つである.今回のように,踏み込んだ内容の議論に参加するか参加者が選択できるようにするこ とが,一つの解決策であると考えられる. 

4.おわりに 

4.1 第 19 回卓越サロンを振り返って 

今回導入した Slido は,今後の卓越サロンでも利用を検討する価値のあるツールであろう.特に,匿名 で利用できるため質問やコメントを投稿するハードルが低くなるという点で,質疑応答に良い影響を与え たと考えている.一方で活用法については改善の余地があり,プレゼンテーションの途中でも質問やコメ ントを投稿できる,他者の質問やコメントに反応をつけられる,といった Slido の特性を活かすことがで きなかった.またブレイクアウト・ルームで議論した内容のフィードバックを Slido の Polls 機能で集める 試みも行ったものの,活発なフィードバックは得られなかった. 

今回のサロンでは,学生間の交流を目的としてブレイクアウトルーム(Zoom)を活用した少人数での グループディスカッション形式を採用したのだが,この形式は実は 2 回目(1 回目は第 17 回卓越サロン) である.1 回目の事後アンケートの一項目「今後のサロンで深堀りして扱いたいテーマ」に対する回答の 中で,「シミュレーションについてのワークショップや議論がしたい」「“進路” の話はセンシティブでな かなか雑談としては話しにくいが,テーマとして提示することで打ち明けやすくなるのでは?」といった ものがあった.そこで今回,「シミュレーション」「進路・人生設計」の二つのテーマを軸とし,さらに各 議論を円滑に進ませるための導入として話題提供のためのプレゼンテーションを組み合わせることを試み た.その結果,提示したテーマやその導入は非常にうまく機能したと感じている.一方で,異分野・領域 の学生間での議論をより深いものにするためには,単に学際的なテーマを提示するだけではなく,分野間 の違い/誤差をそぎ落とした分野共通のコアとなる問題提起を行うなどの工夫が必要であると感じた.引 き続き次回以降のサロンでも領域をまたいだ議論を行っていく中で,このような学融合的な議論の活発化のためのフレームワークを築いていきたいと考えている.

4.2 次回以降に向けた提案 

まず,今回のような少人数でのグループディスカッションはオンライン・オフライン問わず学生間の交 流に非常に効果的であり,今後も定期的に行う価値のある形式であると考える.その際,ブレイクアウト ルーム名を今回のような漠然としたテーマにするのではなく,より踏み込んだ/具体的なテーマにする, もしくはさらに焦点を絞りあらかじめ問題提起を行うことで,より議論を活発化できる可能性がある.そ して今回と異なる形式として,研究の 3 分間プレゼンテーションやポスター発表などを通してみんなの研 究内容を知りたいという意見や,先生方や事務局の方々の日常を知りたいという意見があった.ポスター 発表については,コロナ禍前の対面サロンでは定期的に行っていたものであるので,対面での開催が再開 できれば実現可能だろう.また先生方の 1 日(1 週間)のルーティーンなどを共有してもらうというのも 非常に面白いと思うので,是非次回以降のサロンでの実現を期待する.

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